研ぎには2通りの方法がある

まずそのナイフ本来の切れ味を知る

 シャープニングに入る前に知っておかなければならないのが、そのナイフの持っているベストの切れ味である。簡単なようであるがなかなか難しい。ユーザーのほとんどは買ってきて初めて使用する際の切れ味がベストだと思っているが、ここに大きな間違いがある。私のショップには800種程のナイフがあるが、メーカー出荷の段階でl00%の刃付けがしてあるものは数える程で、二千円のナイフが二万円のナイフより切れるということもしばしばある。(もちろん刃持ちは高い方がよい場合が多いが…)最初の切れ味は、あくまでも刃付けに左右されるからだ。とくにファクトリーメーカーは、量産ゆえに仕方ないが、一本一本砥石で仕上げているものは殆どなく、ベルトサンダーや回転砥石で角度付けをし、バフをかけるといった簡単な刃付けが多いので、そのナイフの持つ本来の切れ味を計り知ることが難しい。そこで費用は多少かかるが一度信頼のおける店に砥石でのシャープニングを依頼してみることをお勧めする。本来の切れ味を知ってこそ、シャープニングを行うに当たってどのような状態までにすればよいのかという目標ができ、それに近づけようと努力するものである。

研ぎにはホーニングとタッチアップの2通りの方法がある

 シャープニングは、根本的に角度を修正するホーニングと、刃先に波状の細かなギザギザをもうけ、間に合わせの切れ味を求めるタッチアップとに大別することができる。後者はあくまでも前者の補助的なもので、根本的な回復や刃持ちは期待できず、携帯品や時間に制限のある現場でのシャープニングに用いられる方法である。すなわち、時間や携帯品に余裕があれば、砥石を使用してきちんと角度を整えるホーニングのほうがよい結果が得られることは言うまでもない。

▼タッチアップ(左)とホーニング(右2つ)での刃先の変化

荒砥、中砥、仕上砥を適切に使い分ける

 砥石はその素材によりいろいろな種類がある。また、粒子の大きさにより大別して荒砥・中砥・仕上砥に分けることができる。次のぺ−ジの表を参考にして適切なグレードのものを選んでもらいたい。その際、選択するうえで知っておきたいことがいくつかある。

●手研ぎの場合の砥石のサイズは、一般的に刃渡りより1−2インチ長いものが必要。
●包丁用の水を用いる混合砂砥を使用する場合、#600位の中砥は中荒砥として使えるが、仕上砥は#4000−#8000と粒子が細か過ぎ、あまり向いていない。
●ダイヤモンド砥石は切削能力が非常に優れているが、力を入れ過ざるとダイヤモンドの粒子を根こそぎ掘り起こしてしまうので注意が必要。
●アルカンサス・オイルストーンは、合成の砥石と比べて圧倒的に耐久性に優れ、中砥・仕上砥として最適な砥石である。

用途に合った研ぎ角を決める

 研ぎの適件角度は、刃先の厚みや川途によって異なる。一般的に薄刃のものは厚刃のものに比べて刃付けがしやすく、抵抗が少ないため、鈍角に研いでもシヤープに感じる。それに対し厚刃のものはしっかりとした角度付けをする必要がある。「包丁は研げるがスポーツマンナイフになるとうまく研げない」というのも、裏返せばこの角度をきちんと出せないということである。しっかりとした研ぎがなされれば10度でも30度でも産毛が剃れるということを覚えておいてほしい。切る対象物が堅い場合は鈍角、柔らかい場合は鋭角に研ぐのが基本である。

●20度以下 キッチンナイフ、カミソリ、フィッシングナイフ、フィレナイフ。
●20-25度 ハンティングナィフ、キャンピングナイフ。
●30度以上 ブッシュナイフ、サバイバルナイフ、アックス。



▲研ぎ面より5度くらい立ててタッチアップすることで、刃先に波状の凹凸ができ、ノコギリ効果で間に合わせの切れ味が得られる。

シャープニング用具各種

ホーニング タッチアップ
ベンチストーン ランスキーシャープナー スティッグ ミニストーン

(砥)
合成 アルミナ系
#150〜250
#70(アルミナ)
#120(アルミナ)
スチール系
荒いもの
アルミナ系
#200前後
ダイヤモンド #400前後 エキストラコース・コース #400〜600
天然 ワシタストーン
(アルカンサス)
× × ワシタストーン
(アルカンサス)

(砥)
合成 アルミナ系
#500〜600
#280(アルミナ) スチール系
細いもの
アルミナ系
#500前後
ダイヤモンド #1000前後 ミディアム・ファイン #800〜1000
天然 ソフトストーン
(アルカンサス)
#300(アルカンサス) ソフトストーン(アルカンサス)
仕上
(砥)
合成 アルミナ及びセラミックス系#1000前後 #600(セラミックス)
#1000(セラミックス)
セラミックス系
ダイヤモンド × × × ×
天然 ハードストーン(アルカンサス)
ブラックハードストーン(〃)
スーパーハードストーン(〃)
#650(アルカンサス)
#1000(アルカンサス)
ハードストーン(アルカンサス)

アルミナ系砥石 金属の粉を混ぜた砥石で、水砥と油砥とがある。削り取る能力は高いが目減りも多い。荒砥・中砥として用いる。
セラミックス系砥石 粒子のバラツキが少なく、天然砥の仕上砥より削り取る能力が高い。中程度の仕上げに適し、オイルは不必要。割れやすいので取扱いに注意。
ダイヤモンド系砥石 硬い金属の上に、ニッケルシルバーのような柔らかい金属と工業用ダイヤモンドの粉を混ぜたものをのせてあり、短時問で削り取ることができ、フラット面を保つ。力を入れ過ぎるとダイヤモンドを根こそぎ掘り起こしてしまうので、なでる程度にストローク回数で減らしていく。
天然砥石 アメリカ・アルカンサス州で採れる砥石で、荒い方から、ワシタ、ソフト、ハード、ブラックハード、スーパーハードに大別されており、スポーツマンナイフに適した砥石である。合成のものより目減りもはるかに少ないので、長い目で見ると経済的。天然のものだから、グレードは一定でないので選ぶ際に注意が必要。

(アルカンサスオイルストーン)

(注) 1:メッシュの番手は各系統の砥石の特性により効果は異なるため、一概に荒砥は何番というふうには決められない。
2:一般的包丁用の仕上砥は♯4000〜♯8000番と細かすぎ、スポーツマンナイフには適さない。
3:ホーニングやタッチアップの他に単純に硬い金属をV字にしたもので根本部分に刃を当てて削るシャープナーがあるが、簡単ではあるが刃こぼれを増幅させるおそれがあるので、使用上の注意が必要。


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